DAZN一強時代を終わらせるのはどこだ

2020.11.05

DAZN一強時代を終わらせるのはどこだ スポーツ配信サービスの”次”を読み解く

小石原 誠

新型コロナウイルスの感染拡大により、自宅で過ごす時間が大幅に増えた今年。そんな自宅時間を楽しくしてくれるアイテムのひとつが、DAZNをはじめとしたスポーツ動画配信サービスです。

新型コロナウイルスの影響により、スポーツリーグやイベントは運営内容を大きく変更することになり、スポーツ動画配信サービスにとっては難しい局面となりました。一方で、今回を機に初めてスポーツ配信サービスを使ってみた、というユーザーも少なからずいただろうことも想像できます。

ところが、そうした初心者ユーザーの立場に立ったとき、現在のスポーツ動画配信サービスの種類の多さや、配信されているコンテンツの複雑さは、かなり困ってしまうのではないでしょうか。

なぜ、スポーツ動画配信サービスはこれだけ複雑なのでしょう? 今回は、2020年10月末時点の各配信サービスのコンテンツについてまとめていきながら、「スポーツ動画配信」というサービスの特徴や企業の戦略について読み解いていきます。

こちらは、2020年10月末時点で確認できる情報を基に集計したものです。DAZNやJ SPORTSオンデマンドなどのように、複数の競技を幅広く楽しめるサービスがある一方で、競技の数を絞ったり特化しているサービスもあることが分かります。

一方、同じ競技であっても、リーグ等により見られる配信サービスが違っていることにも気づきます。例えばサッカーの場合、Jリーグや一部の海外リーグはDAZNで見られますが、ドイツのブンデスリーガはAmazon Prime Videoチャンネルで、オランダのエールディヴィジはHuluでないと見られません。海外リーグで活躍している日本人選手全員をチェックしようと思うと、複数のサービスを利用しないといけないわけです。

さらに厄介なのが日本のプロ野球。Jリーグの試合はDAZNのみを利用していれば見られるのに、プロ野球は一部セ・リーグ球団の主催試合が見られない仕様となっているのです。

サービスを使う側としては、少ないサービスで見たいコンテンツが全て見られる方が都合が良いのですが、実際にはスポーツ動画配信サービスのコンテンツは想像以上に細かく分かれており、各配信サービスが競うようにしてコンテンツを保持しているのが実状です。スポーツ動画配信サービスはまさに群雄割拠の様相を呈しているといえるでしょう。

スポーツ動画配信サービスが群雄割拠となっている理由「放映権」

Jリーグとプロ野球の「放映権」の違い

ではなぜ、スポーツ動画配信サービスは、コンテンツが複雑で細かく分かれてしまっているのでしょうか? その大きな理由となっているのが「放映権」です。

スポーツの試合を生放送・生配信するためには、配信業者等が「放映権」を獲得する必要があります。例えば、DAZNはJリーグとの間で「12年間で約2,239億円」という莫大な金額の放映権契約を締結しています。金額こそ大きいものの、このように一つの契約で長期間、同じ配信業者が生配信できることは、ユーザー側にも安心してそのサービスを利用できるメリットをもたらします。

JリーグとDAZNの新たな放映権契約について|DAZN

DAZN

一方で、例えばプロ野球の場合、各球団がそれぞれ自分たちの主催試合の放映権を管理できるようになっています。パ・リーグは6球団が共同出資で設立した「パシフィックリーグマーケティング株式会社」が生配信の放映権を管理する仕組みであるため、DAZN等で全試合配信が出来ます。しかし、マスメディアと関係が深い球団が多いセ・リーグについては、各球団が独自に放映権を取引する傾向が強く、DAZNでの全試合配信が実現していません。

設立11年で売上は約30倍──パ・リーグマーケティングが目指す「スポーツ界の総合商社」|Forbes CAREER

Forbes CAREER

このように、放映権の取り扱いが競技団体によって違いがあることで、スポーツ動画配信サービスのコンテンツはどうしても複雑にならざるを得ない状況なのです。

また、放映権の契約は有限契約となるため、動画配信を行なうサービスが変わってしまうことも多いです。例えば野球のメジャーリーグは昨シーズンまではDAZNで生配信されていましたが、今シーズンからはSPOZONEに変わっています。メジャーリーグ目的でDAZNに登録していたユーザーは、DAZNを解約して新たにSPOZONEに登録する手間が生まれてしまう訳です。

高額な「放映権料」が悲劇を生み出す?

スポーツ配信サービスにおいては放映権の獲得が重要である一方で、放映権料は高額なコストであるために、時には思わぬ悲劇を生み出してしまいます。2020年10月末の今、DAZNで起きている「チャンピオンズリーグ放映権放出問題」がまさにそれです。

欧州CL配信されず ダゾーンが日本での放映権を手放す|朝日新聞デジタル

朝日新聞デジタル

放映権料は、放映できるエリアや手段が多様であるほど高くなるのが基本です。ですから、複数のコンテンツを保有する大手の配信業者は、国や地域のニーズをシビアに観察し、より少ない放映権料で、より多くの視聴者数を獲得する「全体最適」を目指します。すると、放映権料のコストに見合うユーザー数が見込めないコンテンツは排除の対象となってしまうのです。

そういった煽りを食らう形で「日本の」DAZNから放出されてしまったのが、サッカー界の最高峰と言われており国内にも多くのファンがいる「UEFAチャンピオンズリーグ」の放映権でした。なお今回、UEFAの管轄するすべてのリーグの放映権が手放されているようで、ネーションズリーグやヨーロッパリーグ、スーパーカップの放映も行なわれません。

日本のサッカーファンにとっては中々納得できない話ではありますが、新型コロナウイルスによるスポーツイベントへのダメージは世界規模で大きいものであり、DAZNをはじめとした配信業者等にも大きく影響していることは想像に難くありません。

DAZN|Wikipedia

Wikipedia

スポーツ動画配信サービス界におけるニッチ戦略

ここまでは、複数のコンテンツを保有する大手のサービスについて述べてきましたが、サービス(=売上)の規模は置いておいて、配信するコンテンツの数を厳選することで確実に収益を上げるという戦略を獲っているサービスもあります。SPOZONEやNBA Rakuten、バスケットLIVEなどです。

これらのサービスはいずれも、競技数を少なく絞って配信サービスを行なっています。コンテンツの数が少ないことは不利にも思えますが、スポーツの場合は自分の好きな競技のみをとことん愛する「熱心なファン」が一定数存在しているというビジネス的な特徴があり、そういったコアなファンにターゲットを絞ることで、堅実な売上を見込めます。つまりは「ニッチ戦略」です。

さらにスポーツビジネスの世界には、試合などの動画配信以外の手段で配信サービスを提供している事業者も存在しています。これら事業者は「ライブ映像」というメジャーなニーズではなく、より細かなニーズに応えられるサービスを提供することで、ニッチ戦略を展開しています。映像を使わないということは、つまり莫大な放映権料を必要としないことであり、資金力に乏しいベンチャー企業でも参入余地があるということなのです。

まとめ

スポーツ配信サービス界の現状について整理すると、覇権を獲るためには放映権を獲得し、提供できるコンテンツの量、すなわちサービスの規模を拡大することが重要ですが、それには莫大な放映権料が必要となるために、結局はコンテンツの取捨選択を行なわなければなりません。サービス利用者からの反発があることが分かっていても、時には決断をしなければならないジレンマを、大手のスポーツ配信サービス運営者は抱えているという訳です(それにしても、チャンピオンズリーグはどうにかならなかったと思ってしまいますが…)。

一方で、大手業者でも取り扱いきれないコンテンツが多く存在することで、ニッチ戦略をとれる環境が整っていることも、スポーツ配信サービス界の特徴であり、面白さといえるでしょう。また、最近ではさまざまなベンチャー企業が、実にアイデア豊富な配信サービスを提供しており、こちらも非常に面白味を感じられます。「ライブ映像」以外の配信サービスについては、今後改めて記事にまとめてご紹介したいと思います。

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引用・出典・参考

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